共同注意とは
共同注意とは、人と人、たとえばお子さんと保護者が、同じものに注意を向けることを指します。おおよそ生後9か月頃から出現するといわれています。
共同注意は大きく3つの種類に分類され、①保護者がいるときに、お子さんが見てほしいもの(対象物)を指さす「指さし行動」、②保護者が何か(対象物)を見ているときに、お子さんも同じものを見る「視線追従」、③お子さんが何か(対象物)に対して好きや嫌いなどの評価をするときに、保護者の表情を見ることで参考にする「社会的参照」があります。
このような共同注意によって、お子さんは保護者の行動の意図を理解したり推測したりして、対象物に対する評価や理解、すなわち「これは楽しそうなものだよ」とか「危ないから触っちゃだめだよ」といった感覚を共有していると考えられています。
このような共同注意の能力は、いわゆる「心を読むシステム(他者理解)」を形成する発達段階の1つとして位置付けられることもあります。
共同注意ができるようになるには、保護者ら他者の意図と視線を察知することが必要であり、これによって他者視点取得能力を指す「心の理論」が達成されると考えられています。心の理論の有無を確認する課題として、「サリーとアン課題」というものが有名です。
※サリーとアン課題:サリーはぬいぐるみを持っていて、ぬいぐるみをかごに入れて出かけました。アンはサリーのぬいぐるみを箱の中に入れました。サリーが戻ってきました。さて、サリーはぬいぐるみを見つけるためにどこを探すでしょう?
一般に、4歳未満のお子さんは、「サリーは箱の中を探すよ!」と答え、4歳以上のお子さんは「かごの中を探すよ!」と答えることが多いといわれています。このような「サリーとアン課題」は、社会性やコミュニケーション能力に困難を抱える自閉スペクトラム症(ASD,自閉症)のあるお子さんで苦手さを感じる方が多いようです。「箱を探す」と答えてしまうお子さんは、自分の持っている知識と他者(サリー)が持っている知識が違うという、他者視点取得ができていないためと考えられています。
二項関係と三項関係
共同注意と類似の概念として、自分(お子さん自身)と他者(保護者)、そして注意を共有する対象(対象物:おもちゃなど)の3つの関係性を表す「三項関係」があり、三項関係が理解されることで共同注意が習得されると考えられています。一方で、三項関係以前の、対象物を含まない、自分(お子さん自身)と他者(保護者)だけの1対1のやりとりは二項関係と呼ばれています。
二項関係では、おもちゃなどがあっても人(保護者)とかかわっているときにはおもちゃには注意が向かなかったり、逆におもちゃで遊んでいるときには、近くに人(保護者)がいても人には注意が向かなかったりします。それに対して、三項関係では、お子さんはおもちゃを意識するだけではなく、人に注意を向けることができたり、人が見ているもの、感じていることに注意を向けることができたりします。
この三項関係の獲得によって、特に幼児は他者(特に保護者)を、意図を持った行動をする存在であると認識し、模倣や他者理解の能力を発達させていきます。これによって他者を介して学ぶことができるようになり、たとえば大人が道具を使っている様子をみて、自分もその道具の使い方を学習したり、その道具が危険なものなのか安全なものなのか、評価をしたりすることができるようになります。
共同注意に関連した支援
共同注意や三項関係の獲得は、他者を単なる存在ではなく、体験を共有する存在と認識するきっかけとなり、言葉の発生や単語の理解、コミュニケーション能力を向上させていくための大きなポイントとなります。共同注意を促していくためには、まずは土台となる二項関係、すなわちお子さんと保護者の関係を軸とし、そこから関係性を広げていくような関わりが良いでしょう。
具体的には、お子さんが一人で、おもちゃで遊んでいるとしたら、「何しているの?」とか「太鼓上手だね、トントン」などと、注意を保護者にも向けられるように促してみたり、お子さんに「みて、飛行機飛んでいるよ」と、肩をたたきながら声をかけ、指さし等とも組み合わせて注意を促してみたりするところから始めてみるとよいでしょう。最初のうちは、「みて」と言っても、そちらの方に視線を向けられなかったり、違う方を向いてしまったりするかもしれませんが、たとえば一緒にバスに乗っているときに、スマホに目を向けるのではなく、窓の外に注意を向けさせるような働きかけができるとよいかもしれません。
このように、共同注意「だけ」を引き出すというよりも、日常におけるコミュニケーションの一環でかかわりを工夫することが重要となります。お子さんの反応をみながら、楽しい活動を共有しつつ、徐々にコミュニケーションのレパートリーを増やしていくことができるとよいでしょう。
まとめ
共同注意に関連して、三項関係やサリーとアン課題について紹介しました。今回ご紹介した年齢等はあくまで目安の1つですので、たとえばサリーとアン課題ができないイコール発達が遅れているとか、自閉スペクトラム症の疑いがあるということではありません。共同注意もあくまで発達の1つの指標です。あまりこれ「だけ」にとらわれず、コミュニケーション理解の観点と位置付けていただけるとよいでしょう。