- 注意欠如/多動性障害(ADHD)の定義と原因
- 注意欠如/多動性障害(ADHD)の基本症状
- 注意欠如/多動性障害(ADHD)と合併症の関係
- 叱責・失敗体験の多さ
- [発達段階別]行動・精神面の問題(合併症含む)
- 薬物療法について
- 注意欠如/多動性障害(ADHD)の子どもの支援方法
- 従来の注意欠如/多動性障害(ADHD)の捉え方
- 診断分類の変更点
- ADHDの子どもの成長をサポートする施設
注意欠如/多動性障害(ADHD)の定義と原因
文部科学省の「注意欠陥/多動性障害(ADHD)」の定義は「ADHDとは、年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力、及び/又は衝動性、多動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすものである。また、7歳以前に現れ、その状態が継続し、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。」と定義されています。
(平成15年3月の「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」参考資料より抜粋されているため、症状の発現年齢は7歳以前と記述されています)
しかし、発達障害の枠組みについては、明確な定義がなされているわけではなく、中枢神経系の成熟における何らかの異常により通常小児期から特徴が発現し、生涯を通じて中核的特徴が持続的に認められる疾患の総称として概ね捉えることができると考えられています。
原因不明が大部分ですが、神経伝達物質の異常も推定されており、その小児の有病率は7~10%とされています。(村上,2017)
注意欠如/多動性障害(ADHD)の基本症状
ADHDの基本症状には不注意、多動性、衝動性、の3つの症状があります。
①不注意
症状の例には、先生の話をきいて連絡帳やノートをとることが出来ない、忘れ物が多い、注意が散漫しやすく授業中にすぐに他のことに関心を移す、宿題をしないなどがみられます。
②多動性
症状の例には、授業中に離席し、立ち歩いたり、許可なしに離れた友達のところへ行って話しかけたり、教室の後ろにかけてあるランドセルの中の物を取りに行ったりすることなどの行動がみられます。
③衝動性
症状の例には、いきなり物を投げる、軽はずみで唐突な行動が多い、ルールの逸脱がたびたび生じるなどの行動がみられます。
これらの中核的症状が激しいと、周囲からの働きかけに対する応答性が乏しくなり、3~4歳くらいまでは自閉症と間違えられることもあります(小林,1999)
【性格の特性】
几帳面・融通が利かない・頑固などが指摘されることもあり、これらが対人関係上の問題背景となっていることもあります。
【知的能力】
多くは境界領域以上の知能指数を示しています。しかし、全般的な知的能力に大きな遅れがなくても、認知能力のアンバランスさが認められることが多く、学童期に学習の困難状態を示すことも少なくありません。(小林,1999)
注意欠如/多動性障害(ADHD)と合併症の関係
発達面の問題では、発達性言語障害や極度の不器用さがみられる発達協調運動障害がみられ、ADHDでは、発達面の問題や行動・精神面の問題を合併するものが少なくありません。
小児期においては、学習障害、発達性協調運動障害、反抗挑戦性障害、素行障害などが合併しやすく、成人期では気分障害、不安障害、物質関連障害などの合併が認められやすいとされています。また、行動・精神面の問題では無気力・自信喪失などの二次的情緒障害、不登校、反抗・乱暴や非行などを含め、ADHDに認められることのある行動・精神面の問題があります。
ただし、脳の成熟に伴って、12歳頃を境に減弱するため社会的能力の向上に伴い多動性、衝動性、不注意による行動上の問題が修正されていくことがあるともいわれています。(村上,2017)
叱責・失敗体験の多さ
幼児期の子どもの活動性は高いために、ADHDのお子さんが1~6歳までに「不注意」や「多動性」の症状が注目されないこともあります。一方で、年少児により、ADHDは行動や精神面の問題がみられるため、その行動は周囲を困らせるものであることが多く、注意・叱責を受けやすいことがあります。
ADHD児の示す落ち着きのなさは、脳の機能障害に基づくものであり、本人にも押さえようがないものであります。したがって落ち着きのなさや集団からの逸脱行動を示していても、本人には注意されるような ”悪い” 意識はないことがあります。
自覚していない行動に対して、叱責や注意されることが幼少期から多い場合、子どもの気持ちの中には、反省の念は起こらず、反発心だけが育っていくことがあります。
[発達段階別]行動・精神面の問題(合併症含む)
【乳児】
落ち着きのなさ、不規則な生活・睡眠リズム、泣いて何かを要求することが激しく頻繁にある、少食
【幼児期】
1つの遊びの持続が短い、落ち着きのなさ、激しい活動の変化、かんしゃく、激しい気分の変化、無目的の行動、過度の要求行為、他児との遊び困難、集団行動の困難、言語遅滞、不器用
【学童期】
注意集中困難、多動性(じっと座っていられない)、衝動性、不器用、課題遂行困難、学業不振、乏しい交友関係、問題行動(攻撃性)、興奮しやすい、不登校、教室内で異常にはしゃぐ、いじめ
【思春期】
注意集中困難、学業不振、不登校、退学、集団行動からの逸脱、乱暴・反抗的な言動、非行、性的逸脱行動、激しい気分の変動性、虚言傾向、交通事故
【成人期】
注意転導性、衝動性、激しい気分の変動性、爆発的感情表現、対人関係の維持が困難、対人関係との対立が生じる頻度が高い、低い仕事能力、虚言傾向、睡眠障害、アルコール依存
薬物療法について
多動性・注意力・衝動性に対して中枢神経刺激剤(メルチフェニデート)が一般的には用い要られていますが、薬物療法については厳密にADHDの診断をされる必要があり、容易な診断や治療は避けるべきだと考えられています。また、薬物療法の必要性についても、環境調整、心理社会的支援の効果が十分でないときに薬物療法を検討する必要があります。
注意欠如/多動性障害(ADHD)の子どもの支援方法
ADHDは年代によって症状の現れ方が大きく異なるため、年代に合わせた支援や対応が必要とされます。幼児期の支援方法には、社会的相互性の技能を高めるソーシャルスキル・トレーニング(Social Skill Training;以下SST)、小学生年代には、SSTや認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy;以下CBT)などが有効とされています。
従来の注意欠如/多動性障害(ADHD)の捉え方
ADHDは、精神年齢に比して不適当な、注意力障害・多動性・衝動性を示すものといわれています。同様の症状を示す子どもたちは、以前、微細脳機能障害(Mininmal Brain Dysfunction;以下MBDと略す)と呼ばれていました。微細脳機能障害とは、知的障害が明らかで脳障害が証明されないのにもかかわらず、脳障害児と同様の認知・行動的特徴を示す子どもの総称として用いられていました。しかし、MBDの概念の不明確さから、行動面の症状に問題が示されているものには、「注意欠陥障害」という用語ができ、認知・学習面の症状がみられるものには「注意欠陥/多動障害」という用語が1980年代に使われるようになりました。
診断分類の変更点
アメリカ精神医学会のDSM-Ⅳ(精神障害の診断と統計マニュアル法第4版)までは行動障害に分類されていた注意欠如/多動性障害はDSM-5では神経発達障害群に分類されるという大きな変更がありました。診断記述での大きな変更点としては、症状発現年齢が7歳前から12歳以前に引き上げられている点があります。そして重症度の分類が導入されているために、軽度、中度、重度に分けられるようになりましたが、従来の項目から大きな変更はみられていません。